さようなら、モッテ画材店 2020.1

Sayonara motte

学業の街、調布市の仙川町にある名店が2019年冬に閉店してしまった。時代の変化の波云々で片付けてしまうには言葉も足りぬし、無念さしか残らない。

仙川周辺には様々な画家達が居て、モッテ画材店を愛用していた。「展示会 困った時の モッテ頼み」そんな一句が絵描きの間で囁かれるほどに、モッテの額装技術と額縁種類の豊富さは沢山の作品や芸術を支えてきた。

絵描きたちは色々あれども、モッテ主催のクロッキー道場に集まり、描画に集中した後は線路沿いの赤提灯に移動して、パァーッと打ち上げで呑んだくれていたものだ。

かなりの酒豪揃いだった。

「描くこと」とは、「作品を額装すること」とは何ぞやをモッテの大檀那氏は30年以上の時間をかけて少しずつ伝えてくれた。

情報とデータばかりが流れ行く今の時代だが、モッテ画材店で知り得ることが出来た世界をこの先も忘れる事なくいきたい。

Midnight Moonlight 2017.11

八王子への移住は急に決まった。新しい住まいからは朝焼け空と昇る朝日がよく見える。

力強く輝く太陽と共にビートルズのGood Day Sunshineが聴こえてくるようだ。太陽にやる気と元気を頂いて身支度を整えた私は都心に向かった。一日が始まる。

家路に着く頃には夕焼け小焼けの時間をとっくに過ぎ既に日が暮れていた。

澄んだ空気のためか八王子の夜空は23区内で見上げる空と色合いが違う。

萬年筆のインキ、ブルーブラックの様な漆黒とは違う、深い藍色の空。昼間の喧騒がまるで嘘の様に静かに広がる。深い海の色ともどこか似ている。

夜空に飲み込まれて、このまま溶けてしまいたい。甲州街道沿いを泳ぐ様に、ゆっくり漂う様に、海の底へ深く潜っていく様に私は帰路につく。

そんな中、深海の様な夜空にまたたく星の輝きを信じ続ける、尊いこころざしを持つ人々と出会った。

暫くの間描くことを止めていた私の絵筆は再び動き出した。

(八王子市夢美術館 「八王子市市制100周年記念事業 市民公募はちおうじ」 入選)